薔薇窓(ノートルダム大聖堂)

薔薇窓とミュージカル

舞台では、中央の奥タワーにある。照明によって外側の景色になったり内側の装飾になったりする。照明によって輝きが変化するため、登場人物たちの精神的な動きや、大聖堂の美しさを表現してくれている。

概要

ノートルダム大聖堂の内部を飾る装飾の中で、ステンドグラスの放つ輝きに勝るものはない。その中でも薔薇窓は最も荘厳で大きいステンドグラスである。このような大きさのステンドグラスはゴシック建築以前の石造建築には重量の問題が大きく実現しなかった。尖頭アーチ、リヴ・ヴォールト、フライング・バットレスという三つの技法を総合したゴシック建築以降、高さを求めつつ、壁面の骨組構造に変え窓に大きく解放できるようになった。ノートルダム大聖堂の中で、多くの修復を受けながらも今なお面影を残すのは三つの薔薇窓のみで貴重なステンドグラスになっている。南・北袖廊は1250年代から建築家ジャン・ド・シェルが建設を担当した。(彼は早死したため全貌は見ていたか定かでない)中世時代のその他ステンドグラスはほとんど破壊されてしまい、現在は18世紀のものや19世紀のもの、1965年にル・シュバリエによって新たに作られたステンドグラスにとって代えられている。通常大聖堂は、三つの薔薇窓を持っている。西正面、南・北袖廊扉口と三箇所で、それぞれにキリストを象徴するモチーフが描かれ、意味することがある。ノートルダム大聖堂の薔薇窓は修復されているため、中世の13世紀当時のものが現存するのはシャルトル大聖堂のみで、下記の詳細にはその薔薇窓とも比較しつつ解説する。

西正面のバラ窓

西の薔薇窓 パイプオルガンに隠されている

パイプオルガンに隠され、よく見えない。直径9.60メートル。1220年頃から制作を始められた。外部では西正面ファサードの中で比類なき調和があるが、内部は19世紀に設置されたパイプオルガンでバラ窓の下半分を見ることができない。修復は1731年、1855年になされた。全体の主題は、聖母子が君臨している。その中心部からは12本、外側は24本に細分化される。メダイヨン(メダル型の装飾)はやり直しされている。内側の12本の輻(や)には12人の預言者たちがいる。
外側は24本がさらに2分されており内側の層の下半分は12星座、外側の層の下半分には12ヶ月の仕事が表されている。上部半分は、まず外側の層に槍と盾を持つ王冠を被った女性が坐っている。彼女を象徴する動物が12の美徳を表現している。その内側の層はそれに対応する12の悪徳が配され、より具体的な当時の生活から取られている。シャルトル大聖堂では、西側は最後の審判であり、中央には審判者キリストがいる。日の沈む西の方向に本来はキリスト復活以降を描いているという意味があると思われるが、ノートルダム大聖堂の西薔薇窓は、北側と同じような聖母子が君臨するが、異質な主題が描かれる。修復のために本来の意味が失われたのか本来統一性のないモチーフが採用されていたのかどうかは、定かではない。

北袖廊扉口

北の薔薇窓

直径12.90メートル。1225年ごろ制作。この中では最もよく保存されている。光の弱い北側の薔薇窓は、光の通しの良い青いガラスを中心に憂いと鋭さのある配色されている。中心部には聖母マリアが幼児キリストを抱いて玉座に坐っている。16本の輻がありメダイヨン(メダル型の装飾)には旧約聖書の預言者たちがいる。32個のメダイヨンには、円錐形の三重冠をかぶったユダヤ教の大祭司が表現されている。キリスト到来までのユダヤ民族の歴史、旧約聖書に捧げられている。光の弱い北側にはキリスト誕生以前の世界が描かれ、その中央には聖母と幼子のキリストが登場する。

南袖廊扉口

南の薔薇窓

1260年頃制作。直径12.90メートル。一番修復が多いと言え、絵ガラスの輝きは圧巻であろう。光の強い南側は、光の通しの悪い赤ガラス中心に華やかで陽気な配色にされている。中世のステンドグラス師たちは、色ガラスが持つ特質を見事に知っていたのである。赤ガラスの光の通しを良くするため、赤ガラスの半分の層を白ガラスにする工夫をしている。この袖廊の石組みに収縮が起こったために1737年には完全に再建しなければならなくなった。そのためステンドグラス師ギリョム・ブリスは13世紀のメダイヨン(メダル型の装飾)を新しいのに取り代えた。1854年にも修復されたが、全体の配置などは尊重されたようである。四つ葉形の中心は四福音書記者の象徴の動物に囲まれ、キリストが中央に坐っている。12本の輻の先のメダイヨンは、12使徒が表現されている。そのさきは二つに分かれていき、まず次の層の24個のメダイヨンが殉教者と証聖者、次の層の24個のメダイヨンに殉教者(女性)が配されている。外側の24個の三つ葉形のメダイヨンには天使がいる。キリスト出現以降の新約聖書が描かれる。光の強い南側に穏やかなキリスト到来以降の世界を表現しているようだ。

ステンドグラスとは

ステンドグラスは、透過光線による芸術である。それ自身では輝くことができない。外部から入光があり初めてその輝きを発揮する。外部から入る太陽の光、まさに神のみが秘められた色彩を目覚めさせ、聖堂内に色彩をもたらす。そのため、1日の間でも微妙に色彩を変えていく。中世以来人々は、神の属性として光を考えてきた。この絵窓は聖書をわかりやすく語っている役割も果たした。元々は光の弱い北欧で考案された。ドイツでは9世紀頃からステンドグラスが使われた。12世紀頃のロマネスク時代までは、重量のあるガラス製の絵窓は建築内部的にも不可能だったので、小さな小窓にはめ込まれた。ゴシック建築はそれまでの建築よりもより大きく、そのため頑強な建築となったために、ファサードにも咲く薔薇窓が特徴となった。ゴシック建築とは、フランスだけではなく各ヨーロッパ地域にも見られるようになった建築であるが、垂直方向に伸びる構成要素に丸い窓をつけることは相反する要素であった。南イタリアなどでもその様式は取り入れられたが、無機質的な円形要素ではなく、有機的な花の円形要素を採用したフランス式のゴシック建築はその調和性が見事である。フランス的な相反するものの調和を取り入れる、中庸の精神が貫かれている。


参考文献

パリのノートルダム ー 馬杉宗夫著 2002年発行

関連項目

  • ノートルダム大聖堂
  • ノートル=ダム・ド・パリ

 

(最終更新日:2019年4月15日)